タイでアジア初の医療大麻合法化
アジア初となる医療大麻の合法化法案が、2018年11月に内閣を、12月に国民評議会を通過し、ついに法案が成立しました。
大麻をタブー視してきたアジアにとって、この出来事は大きな転換点になるでしょう。
今回、編集部は首都バンコク、第2の都市である古都チェンマイで、大麻の啓発運動をしている民間団体であるHighland Networkや、合法化後の事業化を企画するThai Cannabis Corporation、製薬会社や薬局、政府関係者等に取材を行いました。
タイってどんなところ??
軍事政権によるクーデターや、時に暴力を伴うデモの頻発など、政治的な不安定さを常に孕みつつも、急速な経済発展を遂げているタイ。物価水準はまだ日本の方が高いですが、以前と比べるとグッと近づいているように感じました。


このようないわゆるお手軽で美味しい屋台料理は200円くらいあればお腹いっぱいになる一方で、

都心部のバーでは、スコッチが一杯2000円以上するところもあり、タイの急速な発展を感じずに入られませんでした。
また、欧米人を中心に外国人の数が多く、バンコクの中心部では英語のみの看板があったりと、豊かな国際色を感じました。世界各国を訪れてきた編集部ですが、バンコクは外国人への抵抗が少なく、とても親切であることも、外国人に好かれる理由でしょう。

一方で、バンコクから30分ほど車を走らせると原生林の中で、川をお風呂がわりに暮らす人たちがいたり。

このように、発展した都市生活と伝統的な生活、高級な面と庶民的な面、多くの外国人を受け入れる寛大さなどが混じり合った多様性がタイ経済の盛り上がりを助けているように感じました。
タイと大麻の関係は?
現在では医療大麻はおろか、日本ですら合法になっているCBDオイルも違法なタイ。
1930年代に違法となり、10年ほど前の違法薬物取り締まりキャンペーンでは、2000人以上が処刑やパニックなどで殺害されています。
しかし、東南アジア全体と共にその歴史を紐解いてみると、東南アジアでは大麻との長い付き合いがあることがわかります。数百年前にインドからもたらされたという説が有力で、調味料や薬、繊維の原料として長い間使われていました。麻の国である日本と似ています。
タイの合法化の土壌
大麻を薬やリラクゼーションとして使う人は未だに多く、当局も滅多なことでないと踏み込んだ捜査や逮捕は行ないそうです。
タイに行ってみるとわかりますが、裏庭で数株の大麻を育てている人がいますし、そこら辺にも自生していますし、手に入れようと思えば難しくはありません。
個人で楽しむ分にはタイ政府もある程度黙認していて、別件逮捕として取り締まる程度だそうです(※)。
また、実際にタイを回ってみるとよくわかりますが、高温多湿なタイは大麻にとって絶好の生育環境です。深いジャングルの中にはいくらでも生えていますし、場所によっては家の裏庭にも生えています。これらを全て監視・取り締まろうと思ったらとんでもないコストがかかるでしょう。
それに追い打ちをかけたのが、「処罰から活用へ」の世界的な医療大麻合法化の流れです。さらに、Highland Networksなどの民間団体や企業の啓発努力もあり、ついにタイ政府も国民評議会も合法化へ舵をきったという流れが今回見えてきました。
※だからと言って良しとされているわけではありません。旅行や出張でタイに行って安易に大麻に手を出すことは絶対にしないでください。逮捕されても文句は言えません。
(重要) 合法化が決定しただけでまだ違法
政府・議会の承認は降りましたが、だからと言って即合法化、今日から使っていいよというわけではありません。
ビジネスとして栽培・加工・販売を行うことは違法です。
合法化の具体的な範囲、処方できる患者の要件、や事業者の許可基準、規制のワークフレーム、そしてそこに至るまでのタイムライン…
全てが「まだ決まっていない」状態であり、合法化に賛成する者反対する者、合法化により利益を享受する者、損をする者、様々なステークホルダーを巻き込んで議論をし、仕組み作りをしていかなければなりません。
今回、合法化を受けて薬局や農家など、様々な潜在的なステークホルダーの方々に取材させていただきました。皆大いに興味を持っている一方で、具体的なプランやアクションを描けず、状況を注視しているに留まっていました。
その大きな理由は、「政治の不安定さ」です。
不安定な政治に戸惑う国民

その大きな理由は、「政治の不安定さ」です。
この改正された法律の運用開始は2019年2月の予定ですが、2019年2月にはタイ総選挙が行われます。
2014年5月のクーデター以来、軍事政権が国を掌握しているタイ。プラユット暫定首相は政治活動の解禁を支持し、民政移管のための総選挙を2月と定めました。
2月の選挙により政権交代は確実に起こります。親軍事政権派が新政権を担うにせよ、反軍事政権派は権力を握るにせよ、彼らの対応次第では、新薬物取締法の法案成立を覆したり、運用開始を遅らせる可能性は十分に考えられるのです。
先に述べた潜在的なステークホルダーたちがまだ動けていない理由はここにあると思います。2月になるまで事態がどうなるかわからない。今下手に手を出して、情勢が変わった時に万に一つでも目をつけられるようなことは避けたい、というのが本音のようでした。
つまり、本格的にタイが医療大麻合法化の路線を進むのかどうかは、2019年2月まではわからないということです。
民間事業者の参入は5年後!?
今回タイで現地取材してよくわかったことは、実現までにはまだまだ時間がかかりそうだということです。
2019年2月の総選挙でスケジュール通りの展開が決まったとしても、そこからパブリックセクターに栽培や研究などの限定的な権限が与えられます。2年ほどR&D(調査と開発)期間ののちに、販売などの実用化が始まり、プライベートセクター(民間業者)が市場に参入するのには5年はかかるだろうというのが、どの関係者にも概ね一致している見方です。
タイ行政府も一枚岩なわけではなく、大麻に対する偏見や製薬業界などの既得権益を守ろうとする層がいたり、さらにはカナダなどすでにカンナビスを事業展開している外国企業からの圧力があったりと、さらには政権交代があったりと
法制化と国内議論の熟成の両輪を同時に行っていかなければならない点に、タイでの医療大麻合法化の実現の難しさがあるように感じました。
後編では、今回得た知見をもとに、日本はどうするべきなのか?
おそらくもう止められないこの世界的な流れの中で、私たちがどうあるべきなのかを提言します。
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